[目的]手術や出血という強い侵襲が加わると過剰な交感神経活動が起こる。生体の機能を維持するために必要な最小限度の交感神経活動を明確にすることを目標とするが、前段階として、胸部と腰部の交感神経活動の相互作用を明らかにした。 [方法]ハロセン麻酔下にネコの第4胸椎または第2腰椎で椎弓切除術を行い、硬膜外腔へカテーテルを留置した。欠損部は重合レジンで塞いだ。交感神経活動は、左腎神経と頚部交感神経幹から同時に導出し、増幅して、今年度設備備品費で購入したデータレコーデイングシステムに収録し、解析に用いた。手術操作終了後、ハロセンの投与を中止し、ペントバルビタール麻酔のもとで心電図、動脈圧、体温(37‐38゚C)、呼気炭酸ガス濃度(35‐40mmHg)が安定していることを確認して対照値を測定した。硬膜外カテーテルより0.5%または1%リドカイン0.1ml/kgを投与して20分後に交感神経活動を再度収録して解析した。 [結果]腰部硬膜外カテーテルからリドカインを注入すると、腎交感神経活動は抑制された。逆に頚部交感神経活動は亢進した。一方、胸部硬膜外カテーテルからリドカインを注入すると、頚部の交感神経活動は抑制されたが、腎交感神経活動に変化は生じなかった。 [考察]腰部の交感神経を遮断すると血圧が低下するため、代償的に胸部の交感神経活動が亢進すると考えられた。しかし、心臓交感神経を選択的に遮断しても、周囲の交感神経活動に変化が起こらなかった。目下、これらの事実に間違いがないか追試中であるが、局所麻酔薬の濃度を変化させることによって、適度に交感神経活動を抑制することができるので、本実験モデルは今後の研究に有用である。
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