〔目的〕手術中に出血という強い侵襲が加わると過剰な交感神経活動が起こり、生命維持が困難になる。手術中、生体の機能をよい状態に維持するために必要な交感神経活動はどの程度かを明確することを目標とするが、その前段階として胸部と腰部の交感神経活動の相互関係を明らかにする。 〔方法〕ペントバルビタール麻酔のもとでネコに気管切開を行い人工呼吸器に接続した。パンクロニウムを適宜投与して筋弛緩を得て、終末呼気炭酸ガス分圧を35〜40mmHgに維持した。直腸温を37〜38℃に保ち、心電図、心拍数、動脈圧などを監視しながらペントバルビタールを追加した。第1腰椎で椎弓切除を行い、硬膜外腔へカテーテルを5mm挿入留置し、欠損部は高粘度接着剤で塞いだ。左第1肋間で切開し、胸膜外腔に星状神経節と、これからの心臓枝(VLCN)を1cm露出した。また、左側腹部を切開し、後腹膜腔に腎動脈を露出し、顕微鏡下に腎神経の1分枝を剥離した。神経はプラスチベースで被覆し、双極銀性電極にのせ、電気活動を増幅し、全波整流したものを5分ごとに面積積分した。連続した5個の積分波の高さの平均を交感神経活動として評価した。局所麻酔薬として1%リドカイン0.1ml/kgを硬膜外腔へ投与した。実験終了後に、フェニレフリン、ニトロプルシドで交感神経の確認を行った。トリメタファンによる節遮断を行ってノイズレベルを測定した。また、メチレンブルーを硬膜外腔へ投与して局所麻酔薬の拡がりを調べた。 〔結果〕拡がりはT_8〜L_3であった。収縮期動脈圧は127±14mmHg(平均値±SE)から5分後に111±15mmHgに、10分後に112±14mmHgに、20分後に118±13mmHgに低下した。腎交感神経活動は100%から5分後に29±8%に、10分後に34±10%に、20分後に52±11%に減少した。一方心臓交感神経は5分後に117±7%に、10分後に110±3%にわずかに増加した。20分後に96±4%に戻った。 〔結論〕腰部硬膜外麻酔で腎交感神経活動は有意に抑制されたが、そのとき心臓交感神経はわずかに増加しただけであった。一方が減少した分だけ一方が増加するということはなかった。
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