硬膜外麻酔を行うと交感神経が遮断されるため、末梢血管は拡張して血圧は低下する。末梢血管の拡張は、脈波の増大、皮膚血流の増加、皮膚温の上昇をもたらすため、効果の確認に利用されている。一方、交感神経が遮断されない部位では、脈波の狭小、皮膚血流の減少、皮膚温の低下が認められ、代償的な交感神経の興奮が起こり末梢血管が収縮していると考えられているが、直接、交感神経活動を測定した研究はない。硬膜外麻酔中の交感神経活動を明瞭にすることは麻酔中の患者管理にきわめて重要である。本研究では、心臓交感神経活動と腎臓交感神経活動を同時に測定して、抑制と興奮の程度を明らかにすることと、交感神経の代償的興奮に圧受容体反射が関与しているかを明らかにすることを目的とした。 15匹のネコを三群に分けた。第4胸椎で硬膜外腔へカテーテルを挿入した6匹の胸部硬膜外麻酔群、第1腰椎で挿入した6匹の腰部硬膜外麻酔群、それに迷走神経ならびに頸動脈洞と大動脈洞反射に関与する神経を切除し第1腰椎で挿入した3匹の腰部硬膜外麻酔群である。1%リドカイン0.1mg/kg投与後、心拍数、平均動脈圧、心臓交感神経活動、腎臓交感神経活動を測定し、投与前値を100とした。胸部硬膜外麻酔群では、心拍数は91%に、平均動脈圧は87%に、心臓交感神経活動は26%に、腎臓交感神経活動は144%に変化した。腰部硬膜外麻酔群では、心拍数は93%に、平均動脈圧は87%に、心臓交感神経活動は164%に、腎臓交感神経活動は30%に変化した。除神経した腰部硬膜外麻酔群では、心拍数は93%に、平均動脈圧は73%に、腎臓交感神経活動は42%に変化したが、心臓交感神経活動は変化しなかった。 硬膜外麻酔で交感神経を遮断すると、遮断されていない部位の交感神経活動は逆に亢進した。この亢進は、頸動脈洞反射ならびに大動脈洞反射を除去しておくと起こらなかった。硬膜外麻酔に伴う低血圧が、頸動脈洞反射ならびに大動脈洞反射を介して、遮断されていない部位の交感神経活動を亢進させることが明らかになった。
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