本研究は、BCGの表在性膀胱癌に対する抗腫瘍効果の機序を明らかにすることを目的に計画されたものである。表在性膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法は、膀胱上皮内癌の治療、あるいは、経尿道的手術により腫瘍切除後の腫瘍再発予防に関して明かな臨床的効果が報告されている。しかし、その作用機序については免疫反応の関与が示唆されているものの未だ明らかにされていない。膀胱癌に対するBCG膀胱内注入は、通常、毎週6回行われるが、私たちはBCGを3回から4回注入した頃の尿に著明な白血球増加がみられること気付き、この現象が、BCGの注入により膀胱粘膜下に生じた何らかの免疫反応の結果であり、この時期に生じる尿中白血球増多がサイトカインによる可能性を予想した。 組織学的検査では、BCG6週注入頃の膀胱粘膜下には、BCGによる遅延型過敏反応によるリンパ濾胞や肉芽腫が成立していた。尿中サイトカインの測定では、第1週BCG注入後にはほとんど認められない、顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)や直接抗腫瘍効果を有する腫瘍壊死因子(TNF)、さらに、G-CSF、IL1が第6週BCG注入4時間時の尿中に多量に産生されることを確認した。なかでも、GM-CSFはヒトでは活性化ヘルパーT細胞のみから産生されることから、これがBCG注入により生じた膀胱粘膜下のおける遅延型アレルギー反応の成立を強く示唆すると考えられた。以上より、BCG注入により惹起される膀胱局所におけるサイトカイン・ネットワークが究極的に腫瘍を破壊する可能性が伺われた。次年度には、こうしたサイトカインが確かに膀胱粘膜下に形成されるリンパ濾胞や肉芽腫の中心であるTリンパ球から産生されることを直接証明するために、in situ hybridizationを用いてそれぞれのサイトカインのメッセンジャーRNAを証明したい。
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