研究概要 |
妊娠時には,子宮-胎盤-胎児系において著明な血管増生(angiogenesis)が生じ,母児循環を確立させる。この急速な血管増生機序の分析は,生殖生理学の基本課題であるのみでなく,臨床産科学の分野でも妊娠中毒症や胎内発育遅延(IUGR)の病態解明に必須の課題となっている。この課題解明の手段として,ヒト子宮,胎盤に存在し,強力な細胞増殖作用とともに細胞分化作用を有し,さらに生理的に存在する物質としては最強の血管新生・誘導作用を有するbasic fibroblast growth factor(bFGF)に着目し,本研究を遂行した。その過程において,以下の成績および知見を得た。 1.強力な細胞増殖作用とともに血管新生・誘導作用を持つbasic fibroblast growth factor(bFGF)の組織内濃度測定のためのtwo-site EIAのシステムを完成した。 2.上記のEIAでの測定結果はbioassayの結果とも満足できる合致を示した。 3.重症妊娠中毒症例,およびbiophysical profileの悪化を示したIUGR例の胎盤では組織内bFGF量は,正常妊娠例のそれに比し有意に低値であり,また形態学的にも梗塞・壊死像が著明に認められた。この結果からbFGFの生成異常とこれらの病態との因果関係が示唆された。 4.子宮筋腫の筋腫組織中のbFGF量は,性成熟期の婦人ではその周囲の筋層組織に比し有意の高値を示すが,閉経後あるいは偽閉経療法中の婦人では筋層と同等の低値となる。この結果からbFGFの生成にエストロゲンが関与していることが示唆された。 5.Extracellular matrixの主要成分であり,bFGFの生物作用発現との密接な関連が推察されるfibronectinの血中濃度は妊娠中毒症の病状と相関を示し,また妊娠中毒症の患者では発症以前より異常値を示すことから,血中fibronectinは妊娠中毒症のbiochemical markerとして有用であることが確認された。
|