研究概要 |
羊水塞栓症は、羊水及び胎便が母体血中に流入することにより発症する。そこで我々は羊水及び胎便中に豊富に含まれるムチンに着目した。このムチンに対し、ムチン母核構造を認識する5種類の抗体(TKH-2,MA54,MA61,CC49,B72.3)が反応すれば、血中に流入したムチンを定量的に測定することが可能であると推測し以下の実験を行なった。羊水及び胎便よりムチンを豊富に含む分画をゲル濾過法により抽出し(胎便抽出液)、これをエライザープレートに固相した胎便プレートを作成した。この胎便プレートで5種類の抗体の胎便抽出液に対する反応性を確認し、また特異性を11種類の糖鎖を用いたcompetition assayにより検討した。さらに、この胎便抽出液に対する5種類の抗体の感度をDot blot法にて検討した結果、TKH-2抗体が感度及び特異度に関し最も優れた抗体であることを証明した。そこで、このTKH-2抗体を用いて羊水塞栓症を発症した5患者の血清でそのSTN抗原濃度を測定した。コントロール群に羊水塞栓症症状を示さなかった分娩直後の母体血清を用い比較したところ、羊水塞栓症を発症した患者血清中のSTN抗原濃度は、コントロール群に比し有意に高値を示した。次に、羊水及び胎便を静注したウサギ動物実験羊水塞栓症モデルを作成し、その肺、肝臓及び腎臓を摘出した。これらに対し従来のムチン染色であるアルシャンブルー染色とTKH-2抗体を用いた免疫染色(ABC法)で、ムチンに対する染色感度を比較検討した。この結果、アルシャンブルー染色よりTKH-2免疫染色の方が、胎便由来のムチンに対し染色感度の良いことが確認された。ヒト羊水塞栓症の肺組織1例につき同様の病理学的検索を行なった。この結果も動物実験モデルと同じ結果を示した。以上より、羊水塞栓症の血清学的診断及び病理学的診断において、TKH-2抗体を用いた診断方法は、有用な検査法の一つであることが確認された。
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