研究者らは、ヒト精漿中に、16kDおよび20kDの2種のimmunoglobulin結合蛋白の存在することを明らかにしてきた。本年度の研究においては、さらに両結合蛋白の生殖免疫学的意義について新たな知見を得た。 すなわち、すでに純化に成功していた16kDFcレセプターにつき、家兎抗血清およびマウスの単クローン抗体を作成した。それらを用いたWestern blot法および免疫組織学的検討により、16kD蛋白は前立腺由来であり、正常前立腺の他、増殖症や癌組織でも発現され、しかももう1つの前立腺特異抗原(PSA)とは異なる分泌動態を持つことを明らかにした。さらにRIA法を開発し、前立腺腫瘍患者では血清中16kD蛋白が増加してくることを見いだし、前立腺腫瘍の腫瘍マーカーとなる可能性を示した。現在はさらに高感度のELISA法を開発し、他の腫瘍も含め詳細な定量的検討を進めている。 生理作用に関しても、16kD蛋白は、ヒトIgG1およびマウスIgMに特異性を持つこと、しかもそのFcレセプターとしての作用は、モノマー型にあり、native formと考えられるホモダイマー型には、immunoglobulinに対する結合性が認められないことを明らかにした。さらに同蛋白は、PWMによるリンパ球幼若化反応のみを抑制する作用を明らかにし、精子抗原に対する抗体産生抑制に重要な役割を担っていることを示した。 20kDFcレセプターに関しては、Western blot法による検討を進め、ヒトIgG‐Fcフラグメントに特異的な結合性を示することを明らかにした。すなわち、山羊IgG‐Fcフラグメントを含む他種のIgGを初め、ヒトにおいても、IgG分子あるいはIgG‐Fabフラグメントとは結合性を示さなかった。また精漿中20kD蛋白は、精巣等男性内性器由来であることを明らかにし、さらに腎臓や胎盤にも存在を証明している。しかし血清、唾液、羊水、卵胞液、肺には存在を認めなかった。現在20kD蛋白の純化を進めている。
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