1.イムノグロブリン結合因子(IgBF)の免疫機能に及ぼす影響を検討した。その結果、IgBFはPWMによるリンパ球幼若化反応のみを特異的に抑制し、PHAおよびConAによる幼弱化反応を抑制しないこと、さらにADCC、NK、補体活性など免疫攻撃系には影響を与えないことを明らかにした。すなわち、IgBFの生理作用は、免疫攻撃からの精子の防御ではなく、精子に対する抗体産生の抑制であると考えられた。 2.IgBFを免疫して得た家兎抗血清および単クローン性抗体を用いて、ウエスターンブロット(WB)法、免疫組織化学さらにはRIA系および高感度のELISA系による定量的検討を行った。その結果、IgBFは前立腺で産生され、精漿中には162.8±15.6mg/mlと極めて高濃度含まれること、前立腺癌患者では血中IgBFが著名に増加する事を明らかにした。さらに頚管粘液(4376.3±4007.4ng/ml)や気管洗浄液(1113.1±153.3ng/ml)にもIgBFが含まれていることを明らかにした。 3.IgBFの構造と機能の関係につき検討した。IgBFは、非還元下では27kDのホモダイマーで、還元カルボキシメチル化により20kDモノマーとなるが、これらにはFcRとしての反応性は認められなかった。反応性はfree SH基を持つ16kDモノマーにのみ認められ、生体では、還元作用あるいは免疫担当細胞によるプロセッシングを受けることによりモノマー型の活性型IgBFに変換すると考えられた。 以上より、IgBFは、外界と接する外分泌腺から分泌されると考えられ、女性内性器における精子に対する抗体産生の抑制など、局所免疫機構への関与が示唆された。また生体では、不活性型から活性型に変化する機能発現調節機序の存在が考えられる。
|