研究概要 |
子宮内膜症に対する薬物療法が腹腔マクロファージの細胞生物学的機能にどのような影響を与えるかを,初回と二次的腹腔鏡(SLL)の際に採取した腹水と腹腔細胞を用いて調べた。対象は1989年から1992年の間に,当科で初回腹腔鏡で子宮内膜症と診断した32症例と16〜24週間の薬物療法後にSLLを行った15症例である。腹水は-80℃で保存しIL-1beta,IL-2,IL-6,MG-CSF,TNF,プロスタグランデイン(PGs)を測定し腹腔細胞は破砕後に凍結保存しホスホリパーゼA2(PLase A_2)活性を測定した。 内膜症群のIL-1beta(pg/ml),IL-2(pg/ml),IL-6(pg/ml),MG-CSF(pg/ml),TNF(pg/ml)、PGF_2alpha(pg/ml),PGE_2(pg/ml),およびPLase A_2活性(pmol/min/mg)はそれぞれ2.9±1.3,2.6±1.7,53.1±95.4,22.7±19.0,10.5±20.7,3036±2471,1589±2058,および442±234であり,SLL群ではそれぞれ2.9±0.9,2.5±0.6,45.1±78.5 ,19.6±6.9,4.2±10.3,656±492(p<0.01),158±109(p<0.01),および190±124(p<0.02)であった。有意に低下したのはPGsとPLase A_2活性のみであったが、初回腹腔鏡時にIL-6(N=6)およびTNF(N=4)が高値であった症例ではSLL時にはそれらの値はすべて低下していた。 以上の結果から,子宮内膜症の病態には腹腔マクロファージ機能の活性化とそれによって引き起こされた腹水中への種々の活性物質の放出が強く関与していることが示された。また、これらの活性物質が内膜症の様々な症状、月経困難症や不妊症の原因となっており、内膜症に対する薬物療法が腹腔マクロファージの活性化を低下させ、症状の緩和や妊容性の回復につながると考えられた。
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