微小核融合法を用いて正常ヒト1番染色体を子宮内膜癌細胞に単一移入することにより造腫瘍性および増殖特性が消失した。さらに同微小核融合細胞では正常ヒト1番染色体を単一移入することにより子宮内膜癌化過程において消失したアクチンストレスファイバーが再び形成され、正常子宮内膜細胞と同様の所見を示した。そこで、正常ヒト1番染色体移入により影響を受ける細胞骨格構成成分を検索し、癌化への関与を検討した。1番染色体移入細胞では細胞内アクチンストレスファイバーの再形成が観察され、アクチン、ビンキュリンが親細胞に比し6〜7倍に過剰集積していた。一方、9番染色体移入細胞では造腫瘍性は消失するが増殖特性は親細胞と同等であった。9番染色体移入細胞では、細胞内アクチンストレスファイバーの再形成はみられなかった。すなわち、アクチンストレスファイバーの再形成は造腫瘍性の消失には必須ではなく細胞増殖特性の変化に関与していると考えられた。アクチン、及びビンキュリンをコードする遺伝子は1番染色体上には同定されていないため、1番染色体移入細胞でのアクチン、ビンキュリンの過剰集積は1番染色体移入による遺伝子量の変化の結果とは考えられなかった。β-、γ-アクチンのmRNA量も変化していないため、アクチンの集積は蛋白安定性の向上によるものと考えられた。腎癌細胞株RCC23に3番染色体を単一移入した細胞では細胞周期の延長、細胞死が認められ正常ヒト1番染色体を子宮内膜癌細胞へ単一移入した場合と同様の細胞増殖特性の変化が観測された。RCC23へ3番染色体を単一移入した微小核融合クローンでは細胞内アクチンストレスファイバーは再形成されていたが、アクチン、ビンキュリンの量は不変であった。以上の結果から子宮内膜癌抑制遺伝子が存在するヒト1番染色体上には、子宮内膜癌細胞でアクチン及びビンキュリンの細胞内安定性を向上させる遺伝子が存在すると推測された。
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