研究概要 |
糖転移酵素の一つであるガラクトース転移酵素(GalT)のうち卵巣癌患者の腹水から精製されたGalTには、電気泳動(native-PAGE)上、通常の血清中には見られない移動度の遅いバンドが含まれていることが判明している。この分画を癌関連ガラクトース転移酵素(galactosyltransferase associated with tumor,GAT)と呼び、β-メルカプトエタノール処理にて自己会合し高分子化する特性を持つことが知られている。そこで今年度は、GATの卵巣癌診断における臨床的有用性を検討すると共にその細胞内の局在について検索した。すなわち、卵巣癌患者の腹水由来のGalTを免疫原としてマウスモノクローナル抗体(Mab)を作製し、native-PAGE上で通常のGalTより移動度の遅い分画(GAT)にのみ反応するMab8513と通常のGalTにも同時に反応するMab8628を選別し、前者を固相化抗体、後者を標識抗体とするdouble-determinant EIAによって健常女性及び卵巣腫瘍患者の血清中のGATを測定し、さらに本酵素の卵巣癌細胞における局在を免疫組織化学的に検索した。その結果、健常女性(294例)の血清GAT値のmean+2SDをカットオフ値(16U/ml)とすると、卵巣癌(119例)における陽性率は52.9%であったのに対し、良性卵巣腫瘍(122例)や子宮内膜症(76例)ではそれぞれ5.7%、6.7%にとどまり、これまでの既存の腫瘍マーカーに比較して偽陽性率は極めて低値であった。従って、子宮内膜症を含む卵巣良性腫瘍での陽性率が低く癌特異性が高いので、卵巣癌診断における良性・悪性の鑑別に有用であることが示唆された。次に、Mab8628の結合部位を蛍光抗体法によって検索したところ、卵巣癌細胞の核上部が強陽性となった。 Post-embedding及びPreembedding methodの両法を用いた免疫電顕によってその陽性部位はGolgi層板のtrans領域に相当することが確認された。次年度は、非癌細胞と癌細胞での局在の変化について検索を続ける予定である。
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