突発性難聴を中心とした、急性感音難聴症例における誘発耳音響放射(EOAE)の経時的なデータ収集は順調に推移して78例に達した。その結果、EOAEの二つの成分(fast、slow component)の時間的経過は、聴力レベルの回復経過・程度にほぼ一致する、もしくは解離するいくつかの型を示すことがわかり、内耳内での障害部位及びその程度の組み合わせの差によるものと考えられた。さらに解析を進め、聴力レベルとEOAEの回復経過の推移が治癒群ではよく相関するが、著明回復群、回復群、不変群と聴力レベルの改善の程度が悪化すると、その相関も悪化することがわかった。このことより突発性難聴で回復治癒する症例の病態は、EOAEの発生部位に可逆的に影響する、おそらくは代謝の障害であると示唆された。また、健側耳でも、従来は変化しないと考えられていたEOAEの変動が観察される例が発見され、突発性難聴の病態の一つと考えられるウィルス感染が無症候性に反対側内耳にも成立しているためと考えられた。 さらに、低音障害型感音難聴症例での解析を行った結果、EOAEの二つの成分は低域の聴力レベルの回復経過・程度に一致せず、不変であることがわかり、内耳内での低音障害型感音難聴の障害部位とEOAEの発生部位とが一恥しないためと考えられた。 動物実験では耳毒性薬物の投与に伴ってEOAEの出力が可逆的に変化、もしくは消失し、その作用部位が主として代謝に依存する微細機構であることが再確認された。また、今後の条件付加のための基礎実験として、正常モルモットで中耳骨包を開放して中内耳に操作を加え、そのEOAEに対する影響を検討したところ、中耳骨包の開放に伴い、EOAEの低域成分が強調され、高域成分は減少する結果が得られ、条件付加時に考慮されるべきであることがわかった。
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