痙攣性発声障害は最近増加傾向にあるがその本態は不明である。治療法として現在までのところ決定的なものはなく患者はいろいろな施設を転々とすることになる。以上のような状況を踏まえ、本研究では痙攣性発声障害患者のために効果の確実な治療法を目指そうとしたものである。 まず、成犬の喉頭に関係する神経を利用し痙攣性発声障害の喉頭モデルを作成しようといろいろな条件下の実験を繰り返したが、その最も最適な刺激状態を得ることはできなかった。次に、声門上部構造がどの様に声帯振動に影響を及ぼしているかを検討するため声門上圧と声帯振動との関係を調べた。その結果声門上圧が上昇すると声帯振動の駆動力となっている呼気が流れないためそれまで規則的に振動していた声帯の振動が停止した。即ち、この現象は痙攣性発声障害時にみられる仮声帯の絞扼運動、これが声門上圧を上昇せしめ呼気を障害して声帯の振動を妨げている可能性を示唆され、さらに仮声帯に絞扼運動が起こらないように仮声帯を切除すれば、声門を正常に呼気がながれ、正常な声帯振動を回復するのではとの考えに至った。以上の考察に基づき3例の痙攣性発声障害患者に仮声帯切除術を試みた。その結果、2症例に於て痙攣性発声がある程度改善されたが、1例は著変なかった。これは痙攣性発声障害の病態が一元的でなく、喉頭のみならず構音機構も関与していることによると考えられた。 そこでさらに、正常人での構音中の声帯振動制御のメカニズムを明らかにするためと声門上圧と声帯振動との関係を高速度ビデオをもちいて解明した。無声破裂音では声門上圧が上昇した後に声帯振動が停止し、声門上圧により声帯振動が制御されており、無声摩擦音では内喉頭筋により声帯振動の停止が起こっていることが明らかにされ、今後の構音障害の構音機構解明に役立つものと思われる。
|