内リンパ液中に補体が存在することはすでに報告している。この補体より、内耳にある自己組織を保護する必要があり、ここになんらかの制禦機構が必要である。補体系制禦タンパクには、いろんなものが含まれているが、今回その一つであるDecay-Accelerating-Factor(以下DAF)の内耳での局在について検討した。体重350g前後の正常雄モルモットを10匹使用し、生理食塩液および10%中性緩衡ホルマリン液にて潅流固定し、中耳骨包を採取し、EDTA液にて脱灰したものと、内耳のそれぞれの器官をsurface preparationして組織をとったものの両者を型のごとく処理し、パラフィン包埋後4μmの切片を作製し、モルモット血清よりすでに精製した抗DAF抗体を用いて、蛍光抗体法にて蝸中とくに血管系、コルチ器、ライスネル膜、蝸中神経、蝸中神経節細胞および内リンパ嚢上皮細胞におけるDAFの局在について検索した。現在、以下の結果を得た。(1)血管系において、辺縁細胞を中心に中間細胞にかけとDAFが存在していたが、基底細胞やラセン靭帯では認められなかった。(2)コルチ器、Claudius細胞、基底板、骨らせん板、蓋膜、ラセン板縁、ライスネル膜において、DAFはなかった。(3)蝸中神経、蝸中神経節細胞においても、同じく存在しなかった。(4)内リンパ嚢上皮細胞において、DAFを認めた。以上の結果より、例外もあるが内リンパ液に接している部位、たとえば血管系、内リンパ嚢上皮細胞にDAFが存在し、内リンパ液中の自己補体よりこれらの組織を保護していると考えられた。内耳でのDAFの存在を確認したことは、今後DAFの抑制あるいは破壊によって新しい内耳病態の形成が可能であり、内耳疾患の解明に有意義であると考え、現在実験中である。
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