研究概要 |
内リンパ液中に補体が存在することはすでに報告した。補体は炎症反応と深い関係にあり、異物や自己組織を含めて傷害を及ぼす作用がある。この補体中もっとも傷害作用が強いのはanaphylatoxinと呼ばれるC4a,C5a,C3aなどである。これらの作用はすでに報告しているが、血管条の萎縮やか牛神経細胞の変性などを発現させていた。このような理由により、補体より内耳にある自己組織を保護する必要があり、ここになんらかの防御機構が必要である。補体系制御タンパクにはさまざまなものがあるが、今回その一つであるDecay-Accelerating-Factor(以下DAF)の正常内耳或は傷害を受けた内耳での局在について検討した。実験動物は、350g前後の雄モルモツトを使用した。か牛全体或はsurface preparationして内耳の各部位をパラフィン包埋し4μmの切片を作製し、モルモツト血清よりすでに精製した抗DAF抗体を用いて、蛍光抗体法にてか牛におけるDAFの局在について検索した。正常動物では1・血管条の辺縁細胞を中心に中間細胞にかけてDAFが存在していた。2・コルチ器においては認めなかった。3・か牛神経細胞においてなかった。4・内リンパ嚢上皮細胞においてDAFが存在していた。またanaphylatoxinにより内耳傷害を与えた動物においてDAFの局在を検討すると、正常動物と同じ部位に存在していたが明らかにその量は減少していた。これらの結果より血管条や内リンパ嚢上皮に存在するDAFによりコルチ器その他の内耳組織が補体より保護されていると考えられた。またDAFの抑制、破壊は新しい内耳病態の形成が可能であり、内耳疾患の解明に有意義であると考察した。
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