移動する視標を注視したときに生じる滑動性眼球運動に混入する小矩形波(Square Wave Jerks)を検討した。まず視標の大きさが小矩形波の発現にどのように関与するかについて健康成人で検討した。0.1Hzの周波数で、水平に移動する視標の大きさを4段階に変えて小矩形波の出現について検討した。この結果は直径9mm(視角0.5°)と18mm(視角1.1°)の視標では差がみられないが、27mm(視角1.5°)、36mm(視角2.1°)と視標が大きくなるに従って、いずれも小矩形波の出現頻度の有意の増加がみられた。 これらの結果をもとに、めまい・平衡障害を訴える患者382例を対象として、眼前1mのところを直径20mm(視角1.15°)の視標が0.1〜0.5Hzで水平往復運動をするのを注視させ、その滑動性眼球運動を記録・分析した。382例のうち小矩形波が出現したのは、47例(12.3%)であった。末梢前庭性めまい疾患では14.4%に、中枢性めまい疾患では38.2%に小矩形波の混入を認め、中枢性めまい疾患の発現頻度が高い結果をえた。また、視標の周波数が0.1Hzのときに最も小矩形波の混在の頻度が高く、0.2、0.3、0.4、0.5Hzと周波数が大きくなるにしたがって発現頻度は有意にて低下した。 小矩形波は脳幹・小脳障害で多発するが、生理的条件でもみられることがある。小矩形波の発現は中枢障害を示唆する所見であるが、発現の有無ではなく、発現頻度を各年齢層で検討して病的意義を見いだすのが妥当である、との結論を得た。
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