本年度は温度眼振の基本的メカニズムを解明するために、摘出したウシガエル内耳を対流で刺激することを試みた。対流は凍らせたリンゲル液にて発生させた。すなわち、カエルリンゲル液内で、半規管上部に氷塊を位置させ、重力方向の対流を発生させた。後半規管への刺激では、反膨大部方向の対流により興奮性、また、向膨大部方向の対流で抑制性の二種類の反応が得られた。これは、これまで機械的内リンパ流動で刺激した場合と同様の反応であった。したがって、対流は半規管に対して有効な刺激効果を有することが判った。ついで、耳石器が温度刺激の影響を受けるか否かを検索するために、卵形嚢を対流刺激することを試みた。カエルリンゲル液内で遊離した卵形嚢の方向を変えることで90度ずつ異なる4種類の方向の刺激が可能となった。対流の方向はいずれも卵形嚢斑の接線方向とした。その結果、どの方向の刺激においてもスパイク数400/秒、時定数8秒程度の明瞭な卵形嚢神経活動電位が発生し、耳石器系も温度変化により刺激を受ける可能性が示唆された。とくに、卵形嚢神経活動電位のスパイク数と時定数はいかなる方向の対流刺激に対してもほぼ同等であった。よって、卵形嚢はどの方向からの対流刺激にもよく反応する機能を備えており、無重力状態で受ける影響も大きいことが推察された。
|