無重力状態で温度眼振反応が観察されたという事実以来、温度眼振の基本的メカニズムの解明が必要となってきた。このため、ウシガエル摘出半規管を用い、まず、温度刺激が内リンパ流動に対流をおこし、これが半規管感覚上皮を刺激することから、内リンパ流動がいかに他の半規管に伝達されるかを検索した。すなわち、ウシガエル迷路を一塊として摘出し、前半規管膨大部より機械的内リンパ流動刺激を与え膨大部神経活動電位の記録を行った。反膨大部刺激を与えると、前半規管神経からは活動電位が記録され、同時に後半規管神経からは抑制性の反応が得られた。よって、膜迷路のある部分に加えられたリンパ流動は、内リンパ腔全体に及んで各受容器から反応をひき起こし、温度眼振の発現に寄与するものと考えられた。つぎに、内外リンパ腔に内耳毒性薬剤であるトブラシンを加えて半規管の活動性を検討した。その結果、外リンパ腔に薬剤を作用させた時のみに反応の低下が見られた。このことより、外リンパ腔のイオン環境が受容器の機能の維持に重要であると考えられた。さらに、凍らせたリンゲル液にて半規管と卵形嚢とを対流刺激することを試みた。その結果、対流は両者に対して有効な刺激となり、後半規管では対流の方向により興奮性、抑制性の二種類の反応が得られた。また、卵形嚢への対流刺激でも著明な興奮性の卵形嚢神経活動電位が観察され、耳石器系も温度変化により刺激を受ける可能性が示唆された。とくに、卵形嚢神経活動電位のスパイク数と時定数はいかなる方向の対流刺激に対してもほぼ同等であった。よって、卵形嚢はどの方向からの対流刺激にもよく反応する機能を備えており、無重力状態で受ける影響も大きいことが推察された。
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