研究概要 |
内リンパ水腫が及ぼす内耳機能への障害を知る事はメニエール病をはじめとする内リンパ水腫関連疾患の病態を把握し、その診断、治療法を解明するために必要不可欠である。我々は既に内リンパ腔に内リンパ等価液を注入することにより内リンパ水腫を作成し、その内外リンパ圧を同時計測した。しかし、その形態変化から予測されるような内外リンパ圧の差は、少なくとも現在測定できる精度内では検出不能であった。今回、この実験的内リンパ水腫のEPを計測したが、positive EPには著明な変化は生じなかった。しかし、無酸素状態で出現するnegative EPは有意に減少しており、蝸牛誘発電位でも-SPがAPに比較して相対的に増大しており、人工内リンパ液の中央階注入による内リンパ水腫の形成は内耳機能に少なからぬ影響を与ていることが判明した。本実験系では、自発耳音響放射を電気的に記録する試みも行なった。この実験によって、自発耳音響放射は外耳道だけでなく、蝸牛交流電位でより明瞭に記録することが判明した。本実験では、正常モルモット20匹中4匹(20%)に複数の卓越周波数から構成される自発耳音響放射が観測された。この自発耳音響放射は脆弱で、無酸素負荷や強大音負荷などAP,CMを減少させるような負荷では、その卓越周波数は低周波数領域に移行の後に消失した。また、人工内リンパ液中央階注入もこの電気的自発耳音響放射は容易に抑制された。この事実は、メニエール病耳では軽度難聴でも自発耳音響放射が記録できない臨床的事実を側面より支持した。
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