研究概要 |
メニエール病をはじめとする内リンパ水腫関連疾患の病態生理を把握するため、内リンパ腔に内リンパ等価液を注入することにより急性内リンパ水腫を作成し、急性に生じた水腫が及ぼす内耳機能の影響を観察し、以下の結果を得た。positive EPは、人工内リンパ液を2μ1中央階に注入する程度では注入中に一過性の軽度増大が認められるのみで、顕著な変化は生じなかった。ただ、negative EPは著明に減少した。このnegative EPの減少は、頂回転に瘻孔を作成し、人工内リンパ液で中央階の還流を行なうと生じないので、急性内リンパ水腫の形成に由来しているものと考えられる(発表済み)。この人工内リンパ液注入による急性内リンパ水腫のAP,SP電位を計測したが、予想に反して、著明な変化は生じず、過去の我々の加圧実験とは異なる結果が出た。一方、鼓室階に人工内リンパ液の注入は-SP電位の顕著な上昇をもたらした(業績未発表)。また、この急性内リンパ水腫の上前庭神経の自発放電を計測したが、放電頻度に著明な変化は認められなかった。一方、前庭階と鼓室階に人工内リンパ液を注入して、上前庭神経の自発放電の変化を検討した結果では、前庭階の高K化は前庭神経の自発放電になんら影響を与えないが、鼓室階の高K化が自発放電の一過性の上昇と、それに引き継ぐ消失と言う予想に反する結果を得た(学会発表)。また、鼓室階のK濃度の計測を行なったが、人工内リンパ液の中央階注入は正円窓下の鼓室階K濃度に著明な影響は与えなかった(業績未発表)。従来より、眩暈発作の成因としては、内リンパ腔の容積増加によるとするものと、膜迷路破裂による前庭階の高K化が上げられてきた。しかし、この研究課題で行なった人工内リンパ液の注入実験では、内リンパ腔の容積増加のみでは、少なくともメニエール病の急性期の病態を説明できないとの結論に達した。
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