研究概要 |
臨床的にヒト中耳真珠腫の特徴である上皮細胞の旺盛な分裂像とケラチンデブリの堆積,更に骨破壊の中で本研究では真珠腫上皮の分裂と分化におけるランゲルハンス細胞(LC細胞)とサイトカインの関与についての研究を目的とした。抗S‐100タンパク抗体を利用した免疫組織学的検索によりヒト中耳真珠腫10症例の上皮内および上皮下にLC細胞の存在を確認したが、諸家の報告に比べて陽性例は少なく、5例に多数のLC細胞を認めたが、残りの5例には有為な増加は認めなかった。これは個々の症例の炎症の程度に依存するものであることと結論された。 新生児ラットの上皮より得られたLC細胞を培養し、培養上清を得た。これをあらかじめ培養したラット表皮細胞に添加してDNA合成能をトリチュームサイミヂンの取り込み量によって、蛋白合成能をトリチュームヒスチジンの取り込みによって測定した。また表皮細胞の終末分化についての測定にはトリチュームピュトレシンを添加し測定した。DNA合成能については非添加群に比べ約2倍になったものの、蛋白合成能については変化は見られなかった。トリチュームピュトレシンの取り込みは添加群の方が多く測定された。 このLC細胞の培養上清をSDS‐PAGEならびにWestern Blotting法にて蛋白分析を行なった結果インターロイキン1に相当する17Kdの部位に抗インターロイキン1α抗体に陽性なバンドを認めた。 (まとめ)炎症や免疫反応に関与するLC細胞の表皮細胞に及ぼす影響について研究した。その結果LC細胞の培養上清は表皮細胞のDNA合成と終末分化を促進した。その培養上清にはインターロイキン1αが含まれており、その関与が示唆された。中耳真珠腫におけるケラチンデブリの堆積や骨破壊にはランゲルハンス細胞を介したインターロイキン1の影響が考えられる。
|