真珠腫上皮の増殖機序におけるサイトカイン、成長因子、その受容体が関与している可能性について調査した。 ラットランゲルハンス細胞培養上清を培養表皮細胞に添加した実験では培養表皮細胞の増殖が促進され、培養上清の蛋白分析(Western blotting法)においても、抗マウスIL-1α抗体に反応する蛋白を17kDaに認めたことから、この増殖因子がIL-1αである可能性が示唆された。しかし臨床的検討においてはIL-1aは骨破壊の程度や真珠腫の進展度とは相関せず、上皮下の肉芽の存在に影響されていると云う結果を得た。 免疫染色は抗IL-1α抗体、抗TGF-αを用いて行ったが、抗IL-1α抗体では10例中5例に真珠腫上皮の全層にわたって淡く染色され、基底膜付近に強く染色がみられた。また上皮下組織では単球系細胞に染色がみられた。EGF-receptorを受容体とするTGF-αに対する、抗TGF-α抗体では正常皮膚に比べてやや上皮層全体が染色されたものの、有意な差は認められなかった。 in situ hybridiatonによるEGF mRNAの局在を調べた結果、正常外耳道皮膚において6例中1例にのみ基底細胞層にシグナルを認めたに過ぎなかった。一方真珠腫上皮においては10例中5例において基底細胞層に沿ってシグナルが発現しているのが観察された。EGF-receptor mRNAのシグナルは正常外耳道皮膚においても6例中5例に基底細胞層に発現していたが、真珠腫上皮においては10例全例に、しかも上皮全層にわたって強いシグナルの発現が観察された。上皮層の中でも、とりわけ基底細胞層、傍基底細胞層には強く発現していた。 真珠腫上皮の増殖発育機序にはIL-1αやEGF、TGF-αなどリガンドの関与が考えられるが、これらリガンドが過剰に産生されているという所見は得られなかった。むしろそれ以上に重要な因子として、EGF-receptor mRNAの発現が過剰に上皮全層にわたって認められることから、EGF-rceptorの発現様式の違いによることが真珠腫の特徴的な組織学的病態を形作っている可能性が示唆された。
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