本年度の計画は、3次元コラーゲンゲル中での耳胞の培養である。 トリプシン処理で、胚細胞は重大な障害を受け、培養後の状態は悪い。機械的除去では、培養後の状態は良いが、間充織細胞は残る。発生途上の耳胞、前聴神経節、および、菱脳域神経管は単離することが困難で、それらは、組織からの遊走細胞と周囲の間充織細胞を含む複合体としてしか取り扱えないと思われる。10%血清添加の通常の培養液では、上記組織片の培養の状態はきわめて悪い。本研究では、培養液として100%ラット血清を使用しているが、この条件では、培養液からの種々の因子の除去は困難である。 耳胞を3次元コラーゲンゲル中で培養すると、培養片の全縁から間充織細胞と思われる細胞が遊走し、楕円状の耳胞の長軸に沿ったlateral側の端に、前聴神経節と思われる細胞塊が観察される。生体内では、耳胞の体表側lateral域から細胞が遊走し、前聴神経節が耳胞のventral側に形成されるが、コラーゲン条件下でも、その特異性は維持されると思われる。聴神経節細胞のマーカーを用いたさらなる研究が必要とされる。 3次元コラーゲンゲル中で培養された前聴神経節の全縁に、間充織細胞と思われる遊走細胞とアクソンが観察される。生体内では、聴神経節からのアクソンの伸長は特定の方向に限定されているが、コラーゲン条件下では、その特異性が消失すると考えられる。作成した抗Wnt-1ペプチド抗体で観察する限り、ブロモデオキシウリジン処理胚の神経冠細胞は前聴神経節に合流しない。この前聴神経節を3次元コラーゲンゲル中で培養すると、対照の場合と同様、培養片の全縁からのアクソンが観察される。神経細胞が存在すればアクソンは伸長すると思われるが、培養片中でのサテライト細胞やシュワン細胞の存否については検討しなければならい。
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