研究概要 |
ストレス応答およびストレス蛋白に関する研究は近年急速に進展しており、特に70kDストレス蛋白に関しては細胞生物学的解析にとどまらず臨床医学における重要性も明らかにされつつある。我々はストレス応答およびストレス蛋白の研究が、眼科臨床医学の場においても展開されてしかるべきと考え、本年度はヒト眼球病理組織におけるストレス蛋白の動態を免疫組織化学的に検討した。はじめに円錐角膜に関する検討を行った。角膜移植により得られた円錐角膜組織では、上皮の形態が変化し角膜表層細胞、翼状細胞および基底細胞が〓錘形を呈する異常構造が示された。正常角膜では、70KDストレス蛋白は角膜基底細胞のボーマン膜側にのみ存在していたが、円錐角膜組織においては、角膜表層細胞,翼状細胞,基底細胞の細胞質と核に存在していた。次いで水疱状角膜症の患者角膜について検討を加えたところ、70kDストレス蛋白はすべての角膜上皮細胞の核および細胞質に存在しており、さらにボーマン膜や角膜実質にも認められた。上記の結果より病的角膜において、ストレス蛋白が角膜上皮細胞において核および細胞質に誘導されることが明らかとなった。さらに我々は絶体緑内障のため摘出された眼球に関し 70kDストレス蛋白の局在を免疫組織化学的に検討し、正常眼球と比較した。正常網膜では、70kDストレス蛋白は内・外網状層にわずかに認められるのみであったが、絶体緑内障眼網膜では視細胞内節、外顆粒層、神経細胞層に局在が認められ、網膜においても病的状態において70kDストレス蛋白の組織内局在が変化することが示された。したがって、70kDストレス蛋白は眼組織においても機能的役割を果たしていることが示唆された。
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