β-シトリル-L-グルタミン酸(β-CG)がレンズに高濃度存在し、しかもレンズ細胞へと分化する細胞の多いレンズ皮質赤道部に局在していることを見いだし、本化合物がレンズ細胞の増殖あるいは分化に重要な役割をしているのではないかと考え、以下の実験を行った。 1.β-CGのレンズにおける局在ならびにレンズの系統発生学的分布:β-CGのウシあるいはウサギレンズの核部、皮質前極、後極、ならびに赤道部の分布を調べると、両者とも皮質赤道部に最も高濃度存在した。またラットやマウスレンズの核部と皮質部の濃度を比較すると明かに皮質部分が高かった。系統発生学的に下位な魚類(タイ、アジ、サンマ等)や軟体類(イカ)のレンズについても分析すると、魚類レンズには、哺乳動物のレンズとほぼ同濃度存在したが、イカレンズには低濃度しか存在しなかった。 2.β-CGの培養細胞の分化に及ぼす影響:ウサギレンズ上皮細胞由来の樹立細胞株(TOTL-86)およびマウスレンズ上皮由来の初代培養細胞にβ-CG(100uモル)を添加し、その分化の指標となる形態変化(レンズ様体の形成)を観察したが、対象群と比べて明瞭な差は認められなかった。 3.β-CGの特異坑体を用いた組織化学的検索: β-CGとサイログロブリン複合体に対する特異的ポリクローナル坑体を用いてレンズ細胞の分化における動態を予備的に解析すると、レンズ様体が形成されている部位が、その周辺部にくらべて、強く反応することがわかった。 4.実験的白内障動物のレンズ細胞におけるβ-CGの量的変化:現在ほぼ確立されている実験的白内障動物の中、代謝異常(高ガラクトース食)によって惹起されたラット白内障レンズについて、本化合物の量的変動を解析すると、レンズ一個当りのβ-CG量は対象の約1/3に減少していたが、蛋白質当りでは、対象と差がなかった。
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