研究概要 |
77例の口腔扁平上皮癌を対象に、PCRとDot blot hybridizationを施行し、HPV DNAの存在について検索した。77例中22例(28.6%)にHPVDNAが検出され、HPV16型が21例、HPV16・18混合型が1例で、口腔扁平上皮癌の発生にはHPV16型が高頻度に認められることが明らかになった。部位別では、舌(9/32,28.1%)、歯肉(4/15,26.7%)、口底(2/11,18.2%)、上顎(3/7,43%)、〓(2/5,40%)、口蓋(2/4,50%)、臼〓部(0/2,0%)、口唇(0/1,0%)で、口底癌でHPV DNAの検出頻度が少い傾向を示した。更に、リンパ節転移を生じた15例について、原発巣と転〓巣でのHPV DNAの存在について検討した。15例中4例は原発巣でHPV DNA陽性(HPV16i3例,HPV16-18,1例)であったが、これらの症例では転〓リンパ節でも同一の型のHPV DNAが検出された。このような所見は、口腔扁平上皮癌ではHPV DNAが細胞DNAに組み込まれた状態で存在していることを示唆するものと思われた。 舌扁平上皮癌を対象にHPV DNAの分布をIn situ hybridizationにより検索し、同時にDNA polymeruse 〓のassociate proteinであるPCNAの発現を免疫組織学的に検索した。その結果、HPV16DNAは基底細胞に類似した形態の腫瘍細胞に存在し、角質変性を示す腫瘍細胞にはhybridized signalの減弱が認められ、このような細胞の分布はPCNA陽性細胞の分布とほぼ一致していた。これらの所見はHPV DNAによる細胞の不死化作用との密接な関連を示しているものと思われた。 正常口腔粘膜でのHPVの存在頻度をユニバーサル・プライマーを用いたPCRで検索した。56例中2例にHPV DNAが検出され、1例はHPV6型、他の1例はHPV16型であった。このような所見は、HPV DNAは正常粘膜上皮に存在することは極めて稀であり、口腔癌患者では比較的高率に見出されることから、HPVの潜在感染患者では上皮性腫瘍の発現の潜在的危険因子となることが示唆された。
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