研究概要 |
齲蝕の主要病原菌であるmutans streptococciがショ糖から合成する粘着性不溶性グルカンは歯垢形成の主因子である。この粘着性グルカンは不溶性グルカン合成酵素(GTF-I)と水溶性グルカン合成酵素(GTF-S)との協同作用によって形成されると推測される。しかし,GTF-IとGTF-Sは培養上清からの収率が低く,その物理化学的,酵素学的,免疫学的性状にはまだ不明の部分が多い。我々のグループは,Streptococcus sobrinusのGTF-I遺伝子をクローニングし,GTF-Iの大量産生系を確立した。そこで本研究ではGTF-Sの大量産生系を確立するためにS.cricetus GTF-S遺伝子のクローニングを試みた。 プラスミドpUC18にS.cricetusHS-6の染色体DNA部分消化5-10kb画分をライゲートし,電気穿孔法でE.coliJM109に挿入した。抗体を用いたスクリーングによって,GTF-S遺伝子の3'また5'末端を含むプラスミドを保有する2クローンの分離に成功した。それぞれ一部のDNA塩基配列を決定したところ,2クローンの保有するプラスミドの挿入DNA-は重複している部分がないことがわかった。さらに,5'末端を含むプラスミドを保有するクローンからその発現融合蛋白を精製した。この蛋白は互いに結合して封入体を形成していたが,4M Ureaで可溶化することができた。DEAE-カラムでNaClの濃度勾配により,ひとつのピークとして精製することができた。この蛋白に対する抗体を家兎を用いて調製した。この抗体はネイティブのGTF酵素とほとんど反応しなかった。 GTF-S遺伝子すべてを含むクローンを得るため,λファージによるクローニングを行ったが、ファージによる蛋白生成量が少ないためか,抗体によるスクリーニングでは目的のファージは検出できなかった。現在,標識DNAによるプラークハイブリダイゼーション法によるスクリーニングを検討中である。また,この方法でも目的のクローンが検出できない場合は,GTF-S遺伝子の3'また5'末端を含むプラスミドDNAをプライマーとするPCR合成DNAのクローニングも考慮する予定である。
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