細胞接着分子(Cell adhesion molecules、CAMs)は、細胞膜にある糖蛋白質で、形態形成過程における細胞間の特異的認識、接着に働く。このうち、神経細胞間の相互作用、接着に働く神経細胞接着分子(N-CAM)をマウスの有郭乳頭味蕾について免疫組織化学的方法により調べた。 抗N-CAM抗体に対して、結合組織と上皮内の神経線維の他に、細長い味蕾細胞のうちの一部が陽性を示した。この陽性細胞は、免疫電顕法により神経終末と求心性シナプスを形成するIII型細胞であることがわかった。味蕾の発達過程では、生後0日目に未熟な味蕾が出現すると同時にN-CAMを含み、シナプスを持つIII型細胞が現れた。すなわち、N-CAMはIII型(味覚受容)細胞が神経終末と求心性シナプスを形成するさいに働くものと考えられた。味蕾は神経依存性で、発生、分化、維持のためには神経線維の存在が必要不可欠である。有郭乳頭味蕾の支配神経である舌咽神経を両側とも切断すると、N-CAM陽性の味蕾細胞は、切断後3日目には正常と同じように見られ、8日目、11日目には数も減るが残存する味蕾の中に見られた。すなわちIII型細胞は、近い将来の神経線維とのシナプス接合を準備するために、N-CAMを常に合成し続けているものと考えられる。 上皮細胞接着分子の抗Uvomolin抗体に対しては、すべての味蕾細胞が周囲の有郭乳頭上皮細胞と同じく陽性を示した。すなわちUvomolinは、これらの細胞間の接着に働くことがわかった。一方、今回の電顕観察のさいに、タンニン酸を含む固定液を用いたところ、味蕾のI、II、IIIの各型細胞の頂上部と味孔内にリン脂質を含む物質に特有な層板状構造物が見られた。これは、味蕾細胞により合成、味孔内に分泌され、味物質が味孔内で、味細胞膜に吸着するさいに、味物質の可溶性を促進する表面活性剤として働くものと推測された。
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