昨年度までに、歯髄における免疫担当細胞、とくに、T細胞および抗原提示能をもつ樹枝状細胞(DC)の加齢変化を検討した。これらの結果から、歯髄においても特有な局所免疫機構(細胞性免疫関与)が存在することが示唆された。しかしながら、T細胞あるいはDCなどは循環系の細胞であり、これらの細胞の動態は末梢血流の動態を反映しているにすぎない可能性がある。したがって、歯髄特有の局所免疫機構の証明には、歯髄に固有な細胞(歯髄固有細胞あるいは象牙芽細胞など)が積極的に免疫応答に関与するかを検索する必要がある。とくに、細胞性免疫の関与を証明するには、T細胞と組織固有の細胞の相互関係は重要な因子となる。その代表として、近年、T細胞のホ-ミング機構が注目されている。そこで、本年度は歯髄の短期間器官培養システムを用い、免疫関連刺激に対する歯髄固有細胞あるいは象牙芽細胞上でのクラスII抗原およびT細胞ホ-ミングレセプターのリガンドであるICAM-1の発現様式を検索した。具体的には、器官培養は10%牛胎児血清添加DMEM培地を用い、24〜72時間培養したものを試料とした。刺激源として、炎症性メディエーターとして知られるインターフェロン-γ(ヒト・リコンビナント;IFN)を培地に添加したものを実験群とした。IFN添加群では、象牙芽細胞にクラスII抗原およびICAM-1抗原の表出を認めた。これらの所見は、無添加群(対照群)ではみられなかった。したがって、象牙芽細胞は免疫応答の場であることが示唆された。この知見は、歯髄免疫機構でひじょうに有益なものである。すなわち、象牙芽細胞が潜在的にクラスII抗原およびICAM-1抗原を保持しているということは、象牙細管からの抗原刺激に対して即座に免疫反応を開始できることを意味する。尚、加齢にともなう変化は現在検索中である。
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