成熟後のマウス顎下腺(SMG)の介在部(ICD)が腺房あるいは顆粒管(GCT)細胞に分化する可能性について検討した。腺房の肥大はβアドレナリン作働薬・IPRにより、GCTの肥大は活性型男性ホルモン・DHTにより誘導し、経時的に、DNA合成(S期)細胞の分布と、各々の細胞の分泌顆粒出現を光顕電顕免疫組織化学により検索した。S期の検索はBrdU標識法で、腺房、GCT細胞の分泌顆粒は各々抗-musin、あるいは抗-EGFで免疫染色した。 IPR処理したSMGの検索:S期は腺房細胞のみに観察され、腺房でのS期細胞の割合はIPR1回投与が最大(約53%)で、2回(22%)、3回(14%)、5回(16%)と減少し、あたかも成熟腺房細胞は一度だけの分裂能しかもたないことを示唆した。SMG重量はIPR投与回数に比例して増加し続け、画像解析の結果は腺重量の増加は腺房細胞の増大化を反映していることを示した。ICDにS期細胞は出現せず構造的にも変化しなかった。IPR投与が誘導するSMGの肥大化はIPRの腺房細胞への直接作用であり、ICDの関与は否定された。 DHT処理したSMGの検索:S期の細胞GCT、ICD両部位に出現し、その頻度は共に3日後がピーク(GCT:10%、ICD:25%)で以後減少したが、DHT処理期間に応じてGCT部の割合は増加した。一方GCTよりICDに高頻度のS期細胞が観察されたにも拘らずICDが発達することはなかった。EGFはGCT細胞の顆粒にのみ局在し、ICD細胞やGCTの前駆細胞と思われるSST細胞の顆粒には見られなかった。S期の細胞がICDのみに限局される時期がなかったため、BrdU投与数日後のGCTに観察された標識細胞がICDから移動してきたものかどうかは判断できなかった。DHTが誘導したGCTの肥大化にはGCT細胞自身の増殖と肥大化の他、ICDの細胞増殖の関与も強く示唆された。 IPRの作用は腺房細胞に特異的なものであり本研究には適さなかったがDHTでの実験で、成熟顎下腺ではpost mitoticな腺細胞に代わってICDが分泌部への細胞供給部位である可能性が間接的ながら強く示唆された。
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