1.象牙質リンタンパク質とコラーゲンとの静電的親和性 象牙質リンタンパク質をビオチンでラベルし、コラーゲン線維との親和性について検討した結果、両者の間に有意の親和性が認められた。結合定数は10^7M^<-1>程度であり、結合量は骨のプロテオグリカンや酸性糖タンパク質に比べて高値であった。変性コラーゲンを結合基質として用いた実験ではリンタンパク質は主としてコラーゲンのα1鎖に結合することが明らかになった。コラーゲンCNBrペプチドを結合基質として用いた実験では、主としてα1CB6、すなわちコラーゲン分子のC末端付近に相当するペプチドに対して親和性を持つことがわかった。未変性コラーゲン分子とリンタンパク質を試験管内で結合させ、架橋試薬で架橋してからCNBrで分解した実験でもリンタンパク質がα1CB6ペプチドに結合することが確認された。 2.象牙質リンタンパク質ーコラーゲン結合物の分析 象牙質不溶性コラーゲン基質をCNBrで分解可溶化し、そこから象牙質リンタンパク質ーコラーゲン結合物を分離した。この結合物がフォスフォフォリンを含むことはコラゲナーゼ消化物の分析およびリン酸含有量の分析によって確認した。この結合物のコラーゲン部分を分析するためにコラーゲンのCNBrペプチドに対する抗体と反応させたところ、α1CB6に対する抗体と反応することがわかった。また、この結合物をプロテアーゼ消化して得られたペプチドを電気泳動、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、α1CB6由来のペプチドが含まれることが明らかになった。象牙質リンタンパク質は象牙芽細胞によって合成分泌された後、静電的親和性によってコラーゲンのα1CB6ペプチドすなわちC末端付近に結合し、生体内で長時間経過するうちに非酵素的反応によって両者の間に共有結合性の架橋が形成されると考えられる。
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