これまでの生菌を用いた検討ではS.mutansでは菌体内のピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)を活性型(A型)に保ちやすく、S.sanguisでは酸素耐性な不活性型(R型)に変換しやすいということがわかっていたが、この機構については不明であった。しかし、平成5年度の検討により、S.mutansのPFL活性化酵素はS.sanguisのPFL活性化酵素よりもはるかに微量のNADPHによって効率的に活性を発揮しやすい性質を持ち、これらの性質には鉄やセレンなどの微量元素が大きく関わっていることがわかった。また、レンサ球菌にはA型PFLをR型PFLに変換するPFL不活性化酵素の存在することも判明した。そして、S.sanguisの方がS.mutansに較べて高いPFL不活性化酵素活性を持つことがわかった。このように、S.mutansではPFLを活性型に保ちやすく、S.sanguisでは不活性型に変換しやすいという現象が、それぞれの菌のPFL活性化酵素ならびにPFL不活性化酵素の性状に起因することが判明した。さらに、PFL不活性化酵素は、微量のピルビン酸ならびに無機リン酸によりその活性が著しく阻害され、CoAによりこの不活性化反応が促進されるという特徴を持つこともわかった。このようにPFL不活性化酵素の活性が、PFLの基質であるピルビン酸とCoAによって正反対の影響を受けるということはレンサ球菌の酸発酵転換で中心的な役割を担うPFLの役割を考える上で重要と思われる。そこで、今後は生菌の代謝・酸産生に関しても検討し、PFL活性化酵素、PFL不活性化酵素によるPFLの活性調節がどのような意義をもつものかについて深く検討したい。
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