研究概要 |
前年度までの研究により、老齢ラット(27ケ月齢)ではカテプシンB,DならびにLが三叉神経節神経細胞の局所に偏在した二次リソソーム内に著明に蓄積し、カテプシンBならびにLの酵素活性は若齢ラット(2ケ月齢)に比較して有意に減少していたことを報告した。今年度は特にカテプシン群が偏在した老齢ラット三叉神経節神経細胞の機能状態を免疫組織学的ならびに電気生理学的に検討した結果、次のような知見が得られた。1.三叉神経節神経細胞の伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する抗体と抗カテプシン抗体との二重免疫染色を行った。抗CGRP抗体は間接蛍光抗体法により、また抗カテプシン抗体はABC法により染色を行った。カテプシン群に偏在の認められない神経細胞はCGRP陽性であったが、カテプシン群に偏在の認められる神経細胞はCGRP陰性であった。CGRPの合成は、逆行性軸索輸送によって細胞体まで運ばれた神経成長因子に依存していることが知られており、今回の結果よりカテプシン群に偏在の認められる神経細胞の軸索輸送は著しく障害されていることが示唆された。2.三叉神経節スライス標本を用い、微小電極法により細胞内記録を行い老齢ラット三叉神経節神経細胞の電気的膜特性を若齢ラットのものと比較した。さらにBiocytinを細胞内に注入し、スライス標本を固定した後、Avidin-Texas Red溶液中で浸透することにより記録した細胞を蛍光ラベルした。また、同一のスライス標本においてABC法を用いてカテプシン群の免疫染色を行った。この結果、老齢ラットのカテプシン群に偏在の認められる神経細胞においても若齢ラットのもと比較して著明な電気的膜特性(静止膜電位、膜抵抗、後過分極等)の違いはないことが分かった。 以上の結果から、ラットの三叉神経節神経細胞では老化によりカテプシン群の酵素活性ならびに局在が著明に変化し、自己貧食が亢進していることが分かった。このような細胞では電気的膜特性には変化は見られなかったが、軸索輸送に障害のあることが示唆された。
|