本年度の実験計画は発達に伴う軟口蓋味蕾の形態および機能の変化を調べることであった。形態的な変化については、出生後0日から4週までの各週齢のラツトの舌、軟口蓋、鼻切歯溝の部分を固定し10mumパラフイン連続切片を作成し、光学顕微鏡で検鏡した。その際、成熟度の指標として味孔が開いているか否かを、ノマルスキー微分干渉観察して正確に観察した。結果は、鼓索神経に支配される舌前部の茸状乳頭の味蕾、および舌後部の有郭乳頭および葉状乳頭の味蕾は、出生してから急速に数が増加し形態も発達し、3週齢でほぼ成ラツトと同じレベルに達することが分かった。これに対して、軟口蓋に分布する味蕾は、出生時にはまだ形態的に未熟ではあるが、ほぼ成ラツトと同数であり、かつ1週齢にかけて増加、その後多少減少して3週齢で成ラツトと同数および成熟した形態を有するようになる傾向があることが分かった。また、ヒトの軟口蓋の味蕾分布に関して78才の軟口蓋を詳しく検索した結果、数個の味蕾を観察した。また、成ラツトの軟口蓋味蕾の機能を神経生理学的に調べた結果、軟口蓋味蕾は糖のみならず各種の中性アミノ酸に対しても非常に大きな応答性を示し、しかも鼓索神経とは逆に各種のD体アミノ酸に高い感受性を示し、鼓索神経とは全く異なるプロフアイルを示した。これらの結果は、軟口蓋味蕾が糖、アミノ酸等の味覚情報の源として特に授乳期に重要な役割を果していることを示唆している。
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