耳下腺のアミラーゼ分泌は、cAMPをセカンドメッセンジャーとする開口分泌の典型であるが、分泌機構におけるcAMP依存性蛋白質リン酸化酵素(Aキナーゼ)の役割はいまだに確立していない。ところが、最近、Aキナーゼによる蛋白質リン酸化がアミラーゼ分泌に関与していることを支持する実験結果が二つ得られた。第一に、以前使用したH-8より疎水性が高く(膜透過性がよい)阻害活性の25倍強力な新しいAキナーゼ阻害剤H-89がcAMPによるアミラーゼ分泌と蛋白質リン酸化を特異的に阻害したこと(FEBSLett.印刷中)。第二に、ストレプトリジン-O処理ラット耳下腺細胞からのcAMPによるアミラーゼ分泌を、最も特異性の高いAキナーゼ阻害剤であるPKI5-24ペプチドが阻害したことである(実験継続中)。しかし、これらの結果はともに阻害剤によるアミラーゼ分泌の低下を見たもので、Aキナーゼの阻害とは別の原因で分泌が低下した可能性を否定できない。 蛋白質リン酸化の関与を完全に証明するには、Aキナーゼ触媒サブユニット自身を耳下腺細胞に導入し、アミラーゼ分泌を誘導する必要がある。私はこれまで、高分子物質を導入することができる開口分泌系の確立を目指して研究を行なってきたが、ストレプトリジン-Oを用いる分泌系がほぼ完成しつつある。現在、cAMPによる確実な分泌誘導とPKI5-24ペプチドによる分泌阻害が確認されている。しかし、この系にシグマ社製の牛心臓Aキナーゼ触媒サブユニット(タイプII)を導入したところ、蛋白質リン酸化の亢進は認められたが、添加されている安定化剤のため非特異的なアミラーゼ遊離が生じ、Aキナーゼによる有意な分泌誘導は認められなかった。アミラーゼ分泌の誘導には、より純度の高い触媒サブユニットが必要と思われる。
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