サブスタンスPは一次知覚神経から遊離して、中枢端側では神経伝達に関わり、末梢端側では炎症のケミカルメディエーターとして作用するとされるが、更に組織の再生や構造の保持にtrophic(栄養的)factorとして働くとの報告がある。一方、歯科用フェノール系薬剤のユ-ジノールやグアヤコールは、特に歯髄炎症の処置に繁用されるが、最近ヒト歯髄線維芽細胞の増殖を促進するとの報告が見られる。本研究では、フェノール系薬剤の炎症に際しての組織修復の機構を明らかにするために、これら薬物の歯髄線維芽細胞増殖作用をサブスタンスPの neurotrophic な作用との関連で検討した。線維芽細胞は、ラット上顎切歯歯髄よりコラゲナーゼ処理により採取した後、10%fetalcalf serumを添加したDulbecco's modified Eagle's mediumにて培養を行った。線維芽細胞増殖作用は、^3H-thymidineの取り込みを指標に観察した。サブスタンスP(10^<-9>-10^<-6>g/ml)は、有意に線維芽細胞増殖を引き起こした。また、ユ-ジノール(10^<-8>-10^<-6>g/ml)とグアヤコール(10^<-8>-10^<-6>g/ml)によっても、有意な線維芽細胞増殖が観察された。ユ-ジノールの高濃度では、かえって増殖が阻害された。0.005%のユ-ジノール及びグアヤコールによって、細切したラット歯髄組織からのサブスタンスP遊離が有意に増加した。これらの結果から、ユ-ジノール、グアヤコールには、これらの薬物による直接的な歯髄細胞増殖促進作用だけでなく、サブスタンスP遊離作用と、それに引き続いて起きるサブスタンスPによるneurotrophicな作用も介して組織修復に働く可能性が示唆された。
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