接着性レジンの象牙質に対する接着もエナメル質に匹敵するまでに向上し、様々な臨床応用の可能性を秘めている。インレー修復の様な間接法修復は、歯冠修復の分野で大きな比重を占めているにもかかわらず、切削歯面の保護法に関しては、ほとんど進歩は見られない。特に窩洞形成時から合着までの間、形成歯面の汚染・感染を防止するため、軟性のセメント類で歯面の被覆保護をしているのが現状である。そのため仮封材の脱落による歯面の汚染・感染、さらに合着時の疼痛などは間接法修復の大きな欠点であり、接着性レジンセメントを合着に用いる場合には、仮封材が接着に及ぼす影響も無視できない。そこで、本計画は上記間接法修復の持つ欠点を克服すべく、接着促進システム「ライナーボンド」を用いて、窩洞形成後直ちに形成歯面を低粘性コンポジットレジンで被覆保護し、それ以降歯髄に加わる刺激を遮断して患者に与える苦痛を極力排除した間接法修復を開発すべく計画されたものである。現在までに、歯質接着性能と辺縁封鎖性能の基礎的検討と、厳選された症例について臨床的予備試験を行った。その結果、従来の接着性レジンセメントの象牙質に対する接着強さが88.7Kg/cm^2であるのに対し、低粘性コンポジットで予め象牙質を被覆した場合は127.5Kg/cm^2と有意に高かった。また、大臼歯のII級修復で行った辺縁漏洩試験でも、従来の合着法では見られた漏洩もほぼ完全に遮断することができた。次に、ユージノール系仮封材が低粘性コンポジットに及ぼす影響を検討したところ、接着性能に対する悪影響は見られなかった。最後に、大臼歯のポーセレンインレー修復について、20症例の臨床予備試験を行ったところ、冷水痛や咬合痛の様な術後疼痛は皆無であった。
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