本研究は、低粘性コンポジットレジンと接着システムを間接法修復に応用し、切削歯面を形成後直ちにこれらで被覆保護をして歯髄に加わる刺激を遮断し、患者に対して苦痛の少ない間接法修復を確立することにある。本年度は、成猿を用いた病理組織学的な研究を行い、歯髄保護効果を検討確認した。すなわち、2頭の成猿を用い、通常のコンポジットレジンインレー修復に対し、窩洞形成後直ちに象牙質面を歯質接着性低粘度レジンで被覆保護して修復を行ったものを実験群とし、対照群として従来通りエナメルエッチング並びにトータルエッチングを行ってインレーを装着した計3群を設定した。いずれの窩洞も印象採得後キャビット-Gで仮封を行い、窩洞形成後7日目にコンポジットレジンインレーを合着した。観察期間はそれぞれについてインレー装着後3日の短期群と90日後の長期群の2群を設定した。所定の期間経過後、被験動物を薬殺し、通法に従って脱灰薄切標本を作製し、歯髄反応を病理組織学的に評価検討した。 その結果、いずれの群においても重篤な歯髄傷害はみられなかった。しかしながら、エナメルエッチング群とトータルエッチング群は接着被覆群に比較して窩底象牙質が比較的厚かったにも関わらず、インレー装着3日後の短期例では、接着被覆保護を行った群に比較して、行わなかった対照の2群において充血が多く観察された。これはこれらの2群において窩底象牙質が裸出しているために、仮封材除去時の機械的な刺激やインレー装着時の酸処理や各種接着操作による化学的ならびに機械的な刺激が一過性に働いて生じたものと考えられ、間接法修復において歯髄刺激を最小限にする被覆保護法の有効性が確認された。また、特筆すべきは、被覆保護群の90日経過の1例で、窩洞形成時にわずかな露髄が確認されたが、そのまま接着性レジンで保護被膜を形成し、前述の手順に従って修復を行ったところ、露髄部は被蓋硬組織で封鎖されつつあり、炎症反応は皆無であった。本技法が臨床的に露髄症例まで応用可能かはさらに検討を要するが、間接法修復に付随する種々の歯髄刺激を遮断する効果があることは明かである。
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