研究概要 |
歯周疾患の主要な原因はポケット内の細菌であるが,生体側の因子も歯周疾患の進展に重要であると考えられている。全身疾患である糖尿病患者に歯周疾患が高頻度にみられることが示唆されているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。そこで、歯周病関連菌であるグラム陰性菌の主要外膜構成成分であるリポ多糖体(LPS)に注目し、LPSが糖尿病患者の多形核白血球(PMN)に及ぼす影響について検討を加えた。 糖尿病患者20名と健常者16名のPMNについて1)ケミルミネッセンス法によりFMLPを刺激剤とした活性酸素産生能,2)Boyden法によるFMLPに対する遊走能,3)TMA-DPHをプローブとした蛍光偏光解消法による細胞膜流動性の測定を行ったところ,糖尿病患者のPMNでは健常者に比べ高い活性酸素産生が認められた。遊走能,膜流動性に関しては差はみられなかった。さらに,歯周病関連菌と考えられている,Porphyromonas gingivalisとPrevotella intermediaから温フェノール水法にて分離したLPSとE.coli由来LPSをPMNに作用させ,活性酸素産生能に及ぼす影響を検討した。PMNを10μg/mlの各LPSで15分間前処理するといずれのLPSにも活性酸素産生を上昇させる作用が認められ,糖尿病患者の方がその傾向が強かった。 この結果より,糖尿病患者では,PMNにより産生された活性酸素が,歯周組織構成細胞である線維芽細胞に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで,培養ヒト歯肉由来線維芽細胞に対してPMNとLPSを作用させLDHを指標として細胞傷害性について検討を行った。その結果LPSを作用させるとわずかながらLDH放出量の上昇が認められ,PMNとLPSの同時刺激は線維芽細胞に障害的に作用する可能性が示唆された。今後さらにこの作用が活性酸素によるものか,ライソゾーム酵素等他の因子によるものか検討を加える予定である。
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