生体内の骨に対する長期間の荷重負荷の除去は、骨吸収と骨形成の両者を阻害することが知られている。この骨形成や骨代謝に及ぼす重力の影響を調べることを目的として、模擬微小重力(クリノスタット)または高重力(遠心)下で、骨芽細胞由来のMC3T3細胞培養し、その応答性の違いを解析した。研究開始の初年度であったので、まず模擬微小重力下での培養を行うための装置(大量培養用クリノスタット:特注品)の完成を目指した。更に、この装置に備え付ける細胞培養容器は、現在は市販のものを用いているが、培養液中に少量の気泡が混入する場合があることが判明した。多量の気泡の混入は、培養液の対流を引き起こしその刺激がストレスとなって、本来の目的である模擬微小重力の影響を観察することが困難となる。このことについては、現在、気泡の混入が起こらない培養容器を開発すべく、培養容器の蓋の部分に改良を加えたものを試作し、かなり改善されつつある。今年度は、細胞骨格系の構造タンパク質であるマイクロフィラメントの細胞分裂中期以降の再構成過程に、重力変化がどの様な影響を及ぼすかをファロイジン-ローダミン染色によって調べた。対照群(静置培養や水平回転培養)と比較して、実験群(垂直回転培養)はマイクロフィラメントの形成が阻害される傾向を示したが、有為な差は認められなかった為、この点に関してはさらに詳細に解析してゆきたいと考えている。また、細胞培養系における骨形成の1つの指標として、コラーゲン合成活性を現在解析中であるが、微小重力下で培養した細胞群は、この合成活性も低い傾向を示唆する結果が得られている。これらの結果が、上述の細胞培養液の流動によるストレスによってもたらされたものか、それとも重力のベクトル方向を回転によって分散させて得られた模擬微小重力の影響によるものなのかを更に今後、詳細に解析してゆきたいと考えている。
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