【目的】 歯科補綴物のろう付けは、主としてブローパイプによりろう合金を溶解して行われている。このため、母材は高温酸化により材質が低下したり、ろう付け後の補綴物の位置関係にくるいを生じることがある。そこで、ろう付温度を低温に設定することが出来れば、これらの欠点を防止できる。低温での接合が可能なろう合金としては、常温で液状であるGa基共晶合金のいくつかが考えられる。これらのろう合金で接合後、接合部を硬化処理が達成され、かつ母材固定用のせっこうの収縮が発現しない350℃以下で加熱し、ろうの構成成分を母材中に拡散させることができれば接合部分での強度の増加および耐食性の低下の軽減が期待される。今回はそのための基礎データを得る目的で単純な系を含むAgベースの合金系で、接合処理および拡散処理を行い接合部の拡散層の観察を行った。 【材料および方法】 各母材は、CuまたはSnを含むAg固溶体、市販の低融Ag合金、金銀パラジウム合金および低カラット金合金である。これらの合金を冷間加工により、5X5X2の板状とし、時効硬化可能な合金は溶体化処理を施した後、接合用母材とした。接合面を鏡面研磨した後、母材を40℃に加熱し研磨面に純Gaをレジン棒で薄く塗布し2枚の板を圧接した。次に、この接合させた試料をピンチコックで固定し、真空中で拡散処理(350℃、1hr)を施した。処理後の試料の接合部分について、光顕観察、硬さ測定(荷重25g)、EPMAによる観察およびX線回折を行い、本接合法の可能性を検討した。 【結果】 1.数%のCuまたはSnを含むAg固溶体中では、Gaの拡散層の幅は約30ミクロンであるが、さらに多元系になると、その幅は減少する傾向にあった。 2.SnおよびPdは拡散層の先進界面近傍に濃化し、Cuは拡散層中で濃化した領域を形成する。 3.Ag-Pd合金、低カラット金合金の拡散層の硬さは時効硬化した母材と同程度(Hv=260)となった。 以上の結果から、Agを主成分とする合金を母材とし、ろう材としてGa基合金を使用する高い接合強度を有する常温近傍での接合処理の可能性が示唆された。
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