上顎顎補綴患者では、上顎の実質欠損により発語機能、咀嚼機能、嚥下機能など口腔の主機能にその低下や障害を認める。これらの機能低下あるいは障害を回復するために補綴学的には顎義歯を適用する。ところが、上顎欠損の部位や大きさまたは、顎義歯の着脱方向との関係で欠損部の充分な閉鎖が得られず、顎義歯装着後に発語、咀嚼、嚥下障害にある程度満足のゆく改善がみられたにもかかわらず、空気や水分の鼻漏という点で良好な結果が得られない場合がある。上顎顎義歯による上顎欠損部の閉鎖度を評価する従来の方法(ex.発語明瞭度、ストロー吹き(時間)、ヘビ笛吹き(長さ)、鼻孔前の鏡やステンレスパイプの曇り具合の形や大きさ等)ではその閉鎖度を定量的・客観的に評価することは困難である。また、吸い上げられた水柱の高さを測定する方法が報告されているが、取り扱いの煩雑な装置を用い無ければならない。 そこで、上顎顎義歯装着による口蓋咽頭閉鎖度を定量的・客観的に評価する目的で、差圧トランスデューサおよび呼吸用アンプを応用し、年令24〜25歳の健常男子4名および上顎実質欠損による口蓋咽頭閉鎖不全を有する患者8名を対象に、顎義歯装着前後のBlowingおよびSucking時における口腔内圧の圧変化をパラメータとして分析・評価を試みた。その結果、被験者各個人の顎義歯装着前のBlowingおよびSucking時の最大圧・安定圧・安定圧持続時間・圧減衰時間を基準値とし、最終顎義歯装着後のそれらとを比較することで口蓋咽頭閉鎖度の定量的・客観的な評価が可能であることがわかった。さらにまた、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータを用いれば、この評価結果を含め患者に関する形態のことなる各種データ(ex.カルテ、口腔内写真、X-ray、音声、下顎運動)を同一次元で扱うことが可能であり、それらのデータベース構築が比較的容易に行なえることがわかった。
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