平成4年度の研究実績は以下の通りである。モルヒネの作用および耐性発現とカルシウムの動態との関連を示すこと、またα2アゴニストであるクロニジンとモルヒネが交差耐性を示すことがよく知られているため、これらの薬物の作用発現および耐性形成機序に関する実験を行なった。本年度は雄性ICRマウスを用いてクロニジン慢性投与マウス、およびモルヒネ慢性投与マウスを作製し酢酸writhing法による鎮痛効果判定実験、および大脳皮質膜分画を調製しカルシウムチャネルのリガンドの結合実験を中心に行なった。その結果(1)10-50μg/kgのクロニジンは濃度依存的に鎮痛作用を発現したが慢性投与後ではその鎮痛作用は減弱した。またクロニジン慢性投与後では1-5mg/kgのモルヒネの鎮痛作用も減弱し交差耐性をおこすことが明らかになった。(2)クロニジン慢性投与後の大脳皮質膜分画への結合実験ではLタイプカルシウムチャネルのリガンドである^3H-PN-200-110の結合は有意に減少し逆にNタイプカルシウムチャネルのリガンドである^<125>I-コノトキシンの結合は有意に増加した。一方モルヒネ慢性投与後のカルシウムチャネルの変化は^3H-PN-200-110、^<125>I-コノトキシンいずれの結合もモルヒネ耐性結合後に有意に増加することが明らかになった。(3)またヒト神経芽細胞腫細胞SH-SY5Yを用いた細胞内カルシウム濃度測定実験ではモルヒネ、クロニジン共にカルバコール刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇を濃度依存的に抑制した。 以上の結果よりモルヒネおよびクロニジンは神経細胞内へのカルシウム流入を抑制し作用を発現すること、さらに慢性投与後はカルシウム動態を変動させ耐性を形成するがこれらの間に交差耐性を発現するがL、Nタイプのカルシウムチャネルが異なった動態を示すことが明らかになり、その詳細な機序に関しては次年度以降の研究の焦点になるものと思われる。
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