口唇裂に付する形成手術術後におこる重度の瘢痕や、口唇発育不全、また口唇腫瘍切除後の口唇欠損に対し、島状筋皮弁、特にAbbe筋皮弁は、一般に良く使用される方法である。島状筋皮弁の生着に関する基礎的研究はほとんどなく、皮弁の大きさ、部位、移動の時期、有茎部切離の時期等、臨床上重要な問題がある。 皮弁血流を客観的かつ定量的に測定する方法として、これ迄、ドップラー法、フルオレッセン法、^<133>Xeクリアランス法等が報告されているが、これ等の方法では組織片や血液サンプルの採取、組織血管への試薬の注入等、皮弁への侵襲を避け難い。赤外線サーモグラフィーは、皮弁に侵襲を与えることなく、その血流状態を知ることが出来、頻回検査も可能であるという利点を有している。 今回行った実験には、口唇筋皮弁としてAbbeの筋皮弁を用いた症例を対象に、術後1日目から20日目までサーモグラフィーによる経過観察を行った。サーモグラフィーは日本電子製サーモビュアMCを用い、室温26±1℃、温度幅3℃または5℃で測定し、走査時間は4秒とし、ポラロイドフィルムに記録した。 まず、移植筋皮弁部と周辺健常組織の温度差を測定した。Abbe筋皮弁3症例のうち2症例では、移植筋皮弁中央部と健常組織の温度差は術後4日目から5日目が最高で0.7℃を示した。しかし、1症例において術後1日目から3日目にかけて、1、1〜1、2℃の温度差を示した。温度差の大きい症例では、臨床所見で筋皮弁部に浮腫と皮膚色調の変化が認められた。以上、サーモグラフィーによる筋皮弁部の温度変化は臨床所見と良く一致し、その血流動能をあらわす指標となり得ることが解った。
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