口唇筋皮弁は、唇裂二次醜形や顔面外傷時の口唇欠損に対する形成手術、口唇悪性腫瘍切除後の再建手術等に良く用いられる筋皮弁である。しかし、筋皮弁の生着に関する研究は乏しい。特に、口唇筋皮弁に用いられる有茎弁の切離時期は臨床上重要な問題であるにもかかわらず、客観的な指標がなく、臨床医の経験に委ねられているのが現状である。本研究はサーモグラフィーやレーザードップラー血流計を用い、有茎弁の血行動態の解析を行うことを目的としたものである。 Abbe皮弁症例を対象に、術後1日から20日目までサーモグラフィーによる観察を行った。サーモグラフィーは日本電子製サーモビュアMC型を用い、室温26±1℃、湿度60%以下で温度幅3℃または5℃で測定し、走査時間4秒で行い、ポラロイドフィルムに記録した。手術直後で筋皮弁の温度は健常部皮膚温度に比べ0.7〜0.9℃の温度低下が認められたが、経日的に温度差は縮小され、術後4日から10日で健常部との温度差はほとんど認められなくなった。特に皮弁基部において、この傾向が強く認められた。筋皮弁切離は術後14日目に施行したが、切離直後で0.6〜1.8℃の温度低下が認められたが、切離後1〜2日で温度差はなくなった。 レーザードップラー血流計により皮弁の血流量を測定した。皮弁形成後は一時血流量の減少が認められたが、その後血流量は次第に増加し、切離前には周囲健常組織と同程度の血流量を示した。このことは、筋皮弁切離時(術後14日目)では、筋皮弁は有茎部動脈よりの血液供給はあるが、筋皮弁周囲健常組織よりの血管新生もあることを強く示唆する結果を得た。 サーモグラフィーおよびレーザードップラー血流計による測定結果は、臨床経過ともよく一致し、Abbe皮弁のような小さな皮弁にも本検査法が有用であることを証明した。
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