本研究は、顎関節症に関するモデル実験を確立するための一環として、老齢化に伴うラット下顎頭部の組織変化、とくに下顎頭部全体の構造変化、軟骨層の石灰化過程の変化、石灰化軟骨の骨への置換様式、軟骨基質中の線維の走行の変化などを明かにすることを目的に、脱灰および非脱灰試料を用いて検索した.材料として1、4、9、16カ月齢のFisher系雄ラットを用いた.(結果)下顎頭軟骨層は、増齢に伴って肥大軟骨細胞層が消失し、軟骨層最下層では石灰化軟骨が形成され、また線維層、増殖細胞層、成熟細胞層、肥大細胞層の各層の細胞数が減少し、細胞間基質中の基質線維が増加しており、とくに線維層から関節表面に垂直に走行する太い線維束の存在は9カ月齢以降で観察された.また9カ月以降では、肥大軟骨細胞が消失し、核も濃縮した厚い石灰化軟骨が形成されていた.これらの所見は、加齢に伴って下顎頭軟骨は硝子軟骨から線維軟骨様に形態変化を起こしている可能性が示唆される.一方、長管骨においては、加齢に伴い骨梁幅の狭小化、ならびに消失、減少といった変化を示すが、下顎頭では骨梁幅の増加と骨髄頸の減少といった逆の現象がみられ、骨硬化症的な変化がみられた.下顎頭に加わるメカニカルストレスが骨梁の増減の重要な因子であることから考えれば、本研究で得られた結果は、ラットにおける咀嚼様式が加齢に伴っても下顎頭に対するメカニカルストレスを与えていること、そしてそのメカニカルストレスが重要な因子となって下顎頭部の骨形成を刺激している結果であると考えられる.今回得られた結果から、光学顕微鏡レベルでの下顎頭の加齢変化に関しては、今後種々の実験系を組んだ際のコントロールとして十分な基礎的知見が得られると思われる.今後顎関節症に関するモデル実験を計画し、本研究結果を十分活用するつもりである。
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