スフィンゴ糖脂質は、細胞膜の外層に存在し、細胞間の情報伝達や細胞分化などの生理機能に密接に関係していると考えられているが、その生理機能については未だ不明な点が多い。また、天然から得られるスフィンゴ糖脂質は、通常その脂肪酸組成が単一でなく、かつそれらの分離が極めて困難なことから、任意の種類と長さの脂肪酸を導入し得る一般性の高い合成法の開発は、スフィンゴ糖脂質の生理機能解明に必須である。 本研究では、われわれが開発した光学活性C4-エポキシドを素子とする複合脂質合成法、及び、独自に開発したイオノホア活性試験法を組み合わせることにより、大豆から単離したカルシウムイオノホア、ソヤセレブロシドIIの立体化学構造とイオノホア活性発現との相関を詳細に考察した。 種々の光学活性C4-エポキシドを出発物質として、計6種のソヤセレブロシドIIのアナログを合成し、各アナログのカルシウムイオノホア活性を調べた結果、そのイオノホア活性発現には、脂肪酸部の2'位R配置の水酸基、糖部4"a配置の水酸基、及びスフィンゴシン部8位Z型の二重結合が関与していることを明らかにした。また、同じく合成したソヤセレブロシドIIの対掌体は、カルシウムイオン捕捉能はソヤセレブロシドIIと同様の強さの活性を示すが、ヒト赤血球膜内のカルシウムイオン濃度上昇作用を示さないことが明らかになった。このことは、キラルな場であるヒト赤血球膜が、対掌体を明確に識別することを示す興味ある知見である。
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