生物由来のエリシターとして最も良く知られているのは、病原菌及び植物細胞表層由来の多糖及びその断片であり、エリシター関連の研究は、植物の抵抗反応機構の解明、病害防除への応用として注目されている。病原糸状菌の一種である疫病菌Mycospherella pinodesに対するエンドウの抵抗性発現に一義的な役割を果たすファイトアレキシンはピサチンであり、松原等はピサチン誘導のために必須の役割をもつエリシターを糸状菌の分生芽胞から発芽中に媒介体に分泌される糖タンパクとして見いだした。本物質は分子量130万、糖とアミノ酸の比は1:2.8からなる糖蛋白質で糖鎖部分はβ-Glc-(1-6)-α-Man-(1-6)-α-Manの三糖よりなり、タンパクとセリンを介してO-グリコシド結合をしていることが判明している。我々は、本物質の断片にもエリシター活性を有する可能性を想定して、活性部位の最小単位を合成面からアプローチするためにモデル化合物の合成を試み、三糖セリン及び三糖セリルプロリンの合成を行った。エリシター活性についてエンドウ葉中のファイトアレキシンPisatin生成量をHPLCにて定量した結果、原体である糖タンパクが1.23μg/cm^2に対し、前者は0.59μg/cm^2、後者は0.94μg/cm^2と弱いながらも活性を示した。本最小単位は明らかに活性構成単位ではあるが、更なる分子量あるいはペプチド分岐鎖を必要とするものと考えられる。今後さらにペプチド鎖の延長あるいは分岐鎖も含め、構造-活性相関を検討し、植物の生体防御システムの解明に取り組みたい。
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