核酸塩基の中、グアニル基(G)は四量体積層構造(G4積層構造)を形成することが知られている。この様な構造に特徴的な全体振動(Sモード)の帰属およびその動的性格の解明を目的とし、グアニル基が積層した構造を有し、Sモードと対応した格子振動が観測されるグアノシン結晶について、低波数領域ラマンスペクトル測定をおこなった。グアノシン結晶は、温度条件、湿度条件に依存し、グアニル基の積層構造を保持した状態で結晶構造転移を起こすが(Y.Sugawara et al.、投稿中)、20-30cm^<-1>付近に存在するSモードは、構造転移の全ての相で保持されていることが明らかになった。一方、結晶構造転移と共に40-100cm^<-1>領域に観測される他の格子振動の振動数および強度には顕著な変化が生ずる。また、Sモードの振動数は、二水和物で27cm^<-1>、無水物で18cm^<-1>、1.2水和物相当の相で32cm^<-1>とシフトを示した。これは、結晶構造転移に伴なう積層構造の微少な変化や積層構造体間の相互作用力の変化がSモードの振動数に反映されていると考えられ、G4積層構造の低周波ラマンスペクトルで観測されたイオン種や水和度に依在したSモードの振動数変化との相関に興味がもたれる。現在グアノシン二水和物結晶およびグアノシン四量体積層構造モデルについて、非結合原子間に(exp-6)ポテンシャル、水素結合項に(10-12)ポテンシャルを用いた基準振動計算を行ない、40cm^<-1>以下の振動数の振動モードに注目し、分子間ポテンシャルの妥当性についての評価と共にSモードの振動形についての検討を進めている。
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