微生物は地球上のあらゆる環境下に棲息しており、生物の環境変化に対する適応機構の研究の格好の材料である。そこで大腸菌を用い、アルカリ性環境下に対する適応機構を調べた。今までは、細菌がアルカリ性環境下で生育するためには、細胞内pHを中性に保つことが必要であると考えられていた。そして、Na^+/H^+antiporterによる細胞内pHの調節機構が提出されてきた。しかし、大腸菌に存在する数種のNa^+/H^+antiporterをすべて欠損した変異株を分離し、その性質を調べた結果、大腸菌はNa^+/H^+antiporterがすべて欠損していてもアルカリ性環境下で生育できることがわかり、Na^+/H^+antipoterによる細胞内の中性化は必要ない事がわかった。事実、イオノフォアを用いて細胞内をアルカリ性にしても大腸菌は生育できた。これらの成果により、アルカリ性に対する大腸菌の適応は、細胞内を中性に保つことではなく、細胞内の代謝系をアルカリ性に対して耐性な代謝系に変えることにより行われることが明かとなった。次に、大腸菌がアルカリ性で生育するためにはどのような遺伝子が必要であるかを明らかにするために、アルカリ性で生育できない変異株の分離を行ったところ、10種類以上も分離することができた。したがって、細菌がアルカリ性環境下で生育するためには、かなり多くの遺伝子の発現が必要であることが示れさた。そこで、今後は、細胞内がアルカリ性環境下で生育するために必要な遺伝子を同定することにより、これらの遺伝子のアルカリ性での発現調節機構、および微生物のアルカリ性適応機構を明らかにしたい。
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